「相続せずに解体したい」は可能?その考えが招く5つのリスクと、最も賢い解決策とは

親が高齢になり施設へ入居したり、あるいは誰も住む人がいなくなったりして、実家が空き家になってしまう。そんなご家庭は、今や決して珍しくありません。遠方に住んでいると定期的な管理も難しく、庭の草は伸び放題、家はどんどん傷んでいく。毎年かかり続ける固定資産税も、決して軽い負担ではありません。


こうした状況を前に、「このままではご近所にも迷惑がかかるし、誰も住まないのなら、いっそ相続する前に解体して更地にしてしまえないだろうか」と考えるのは、ごく自然なことかもしれません。その方が、将来の相続トラブルの種を減らせるように思えるし、何より目の前の悩みが一つ解決するように感じられます。


しかし、その「良かれと思って」の行動が、実は法的に大きな問題をはらんでいることをご存知でしょうか。結論からお伝えすると、相続が正式に始まる前に、相続人になる予定の人が独断で実家を解体することは、原則としてできません。もし、その事実を知らないまま話を進めてしまうと、他のご家族との間で深刻なトラブルに発展したり、本来なら避けられたはずの不利益を被ってしまったりする危険性があるのです。ご家族と実家の未来を守るために、まずは正しい知識を身につけることが何よりも大切です。




知っておくべき法律の壁。所有権と「単純承認」のリスク

なぜ、相続が始まる前に実家を解体してはいけないのでしょうか。それは、感情的な問題だけでなく、法律ではっきりと定められたルールがあるからです。「誰も住んでいないのだから」という理由だけでは乗り越えられない、大切なポイントが3つあります。



そもそも「誰の持ち物か」という問題

最も基本的なことですが、その家は「誰の持ち物か」を考えなくてはなりません。ご両親がご健在であれば、家の所有者はもちろんご両親です。たとえその子であったとしても、他人の財産を勝手に処分することはできません。そして、ご両親が亡くなり相続が開始された後、遺産分割の話し合いが終わるまでは、その家は相続人全員の「共有財産」となります。つまり、自分一人のものではないのです。自分以外の相続人がいる場合、その全員の同意がなければ、家の解体といった大きな変更を加えることは法律で認められていません。



相続人、一人でも反対すれば進まない

たとえあなたが「解体した方が良い」と強く思っていても、他のご兄弟などが「思い出の詰まった家だから残したい」「自分が住むか、人に貸すことを考えたい」と思っているかもしれません。相続人の間で意見が分かれた場合、一人の意見だけで解体を強行することはできません。無理に進めようとすれば、家族関係に深い溝を作ってしまうことになりかねません。解体は、あくまでも相続人全員が納得した上で行うべき最終的な選択肢の一つなのです。



知らないと怖い「単純承認」とは

そして、これが最も注意すべきリスクです。もし、相続人が実家を解体するような行為をした場合、法律上、それは「私はすべての遺産を相続します」という意思表示をしたと見なされる可能性があります。これを「単純承認(たんじゅんしょうにん)」と呼びます。何が問題かというと、もし亡くなった親に借金などのマイナスの財産があった場合、単純承認をしてしまうと、その借金もすべて引き継がなくてはならなくなるのです。本来であれば「相続放棄」という手続きをすることで借金の返済義務から逃れることができたはずなのに、家を解体してしまったがために、その権利を自ら手放してしまうことになりかねません。




「とりあえず現状維持」が最も危険?空き家を放置する末路

相続人同士の話し合いがまとまらなかったり、手続きが面倒だったりして、「とりあえず、しばらくはこのままにしておこう」と問題を先送りにしてしまう。その気持ちは、よく分かります。しかし、その「現状維持」という選択が、実は最も多くのリスクを抱え込むことになりかねないのです。時間が経てば経つほど、状況は少しずつ悪化していきます。



増え続ける経済的な負担

まず、誰も住んでいない空き家であっても、所有している限り税金の支払い義務は続きます。毎年、固定資産税や都市計画税が課税されます。それに加えて、万が一の火災に備えるための火災保険料も必要でしょう。また、家や庭が荒れ放題になるのを防ぐためには、定期的に訪れて草むしりをしたり、換気をしたり、傷んだ箇所を最低限補修したりといった手間と費用もかかります。遠方であれば、そのための交通費もかさみます。これらの負担は、問題を放置している限り、終わりなく続いていくのです。



近隣トラブルと損害賠償のリスク

老朽化した家は、様々なトラブルの原因になります。庭の雑草が伸びて隣の敷地に入り込んだり、害虫やネズミが住み着いて悪臭を放ったりすれば、ご近所との関係は悪化してしまいます。さらに深刻なのは、建物の安全性の問題です。強い台風で屋根瓦が飛んで隣の家の窓ガラスを割ってしまったり、地震でブロック塀が崩れて道路を塞いでしまったり。もし、倒壊した家屋が原因で通行人が怪我をするようなことがあれば、その所有者である相続人たちが、多額の損害賠償責任を負うことにもなりかねません。



固定資産税が6倍になる「特定空家」

そして、最も大きな経済的リスクが「特定空家(とくていあきや)」への指定です。これは「空家等対策特別措置法」という法律に基づくもので、管理されずに放置され、倒壊の危険性が著しく高い、あるいは地域の景観や衛生環境を著しく損なっていると行政が判断した空き家が指定されます。この「特定空家」に指定されてしまうと、これまで受けていた固定資産税の優遇措置(住宅用地の特例)が適用されなくなり、結果として税額が最大で6倍にまで跳ね上がってしまうのです。問題を先送りした結果、ある日突然、これまでとは比べ物にならない額の納税通知書が届く、という事態に陥る可能性があります。




解体か、相続放棄か。後悔しないための意思決定ガイド

目の前にある実家を「負」動産にしないためには、ご家族が置かれた状況を冷静に見つめ、どの選択肢が最も合っているのかを慎重に考える必要があります。ここでは、代表的な3つの選択肢について、それぞれの良い点、そして注意すべき点を整理しました。ご自身の家族構成や実家の状況と照らし合わせながら、考えてみてください。



選択肢① 相続して解体し、売却・活用する

これは、実家が持つ土地の価値を活かすための、最も前向きな選択肢の一つです。建物を解体して更地にすることで、土地を売却しやすくなったり、駐車場などとして貸し出し、収益を得たりする道が開けます。


メリット:土地という資産が手元に残り、売却によってまとまった現金を得られる可能性があります。


注意点:解体費用がかかるほか、相続税や不動産の名義変更(登記)にかかる費用も必要です。


こんなご家族に:土地の資産価値がある程度見込め、相続人全員が土地の売却や活用に賛成しており、解体などの諸費用を分担できる場合に向いています。



選択肢② 相続放棄で、すべてを手放す

これは、資産よりも借金の方が多い場合などに検討される法的な手続きです。家庭裁判所に申し出ることで、プラスの財産(家、土地、預貯金など)も、マイナスの財産(借金など)も、一切引き継がないことにできます。


メリット:管理が難しい空き家や、親が残した借金など、すべての負担から法的に解放されます。


注意点:家や土地だけでなく、預貯金や有価証券といったプラスの財産もすべて手放すことになります。一度手続きをすると、後から取り消すことはできません。


こんなご家族に:亡くなった親に多額の借金があることが明らかな場合や、土地に全く資産価値がなく、管理していくことが大きな負担になる場合に有効な選択肢です。



選択肢③ 相続してリフォームし、賃貸・居住する

もし家の状態が比較的良く、立地にも恵まれているのであれば、リフォームをして活用するという選択肢もあります。誰かが住むことで、家の傷みを防ぐことにも繋がります。


メリット:賃貸に出せば、継続的な家賃収入を得られる可能性があります。また、相続人の誰かが住むという活用方法も考えられます。


注意点:リフォームには高額な費用がかかる場合があります。また、必ずしも借り手や買い手が見つかるという保証はありません。


こんなご家族に:駅に近い、周辺に商業施設が多いなど、賃貸としての需要が見込めるエリアに実家がある場合、検討の価値があります。




専門家と連携してスムーズに。相続から解体完了までの5ステップ

ご家族で話し合った結果、「選択肢①:相続して解体する」という結論に至った場合、具体的にはどのような手順で進めていけば良いのでしょうか。相続は法律が関わる複雑な手続きも多いため、一つひとつ着実に進めていくことが大切です。ここでは、その大まかな流れを5つのステップに分けてご紹介します。



ステップ1:相続人の確定と遺産分割協議

まず、誰が法律上の相続人となるのかを、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本を取り寄せて正確に確定させます。相続人が確定したら、全員で集まり、実家の解体を含め、誰がどの遺産をどのように分けるのかを話し合います。この話し合いを「遺産分割協議」と呼びます。ここで決まった内容は、後々のトラブルを防ぐためにも、必ず「遺産分割協議書」という正式な書面に残しておきましょう。



ステップ2:家の名義変更(相続登記)

遺産分割協議がまとまったら、法務局で不動産の名義を、亡くなった親から遺産を引き継ぐ相続人へと変更する手続きを行います。これを「相続登記」と呼びます。この手続きが完了して初めて、法的にその家の所有者となり、解体や売却といった処分を行うことができるようになります。



ステップ3:信頼できる解体業者の選定

家の名義変更が済んだら、いよいよ解体業者を探します。複数の業者から見積もりを取り、費用や工事内容、担当者の対応などを比較検討しましょう。これまでの経緯やご家族の想いを親身に聞いてくれるような、信頼できる業者を選ぶことが大切です。



ステップ4&5:解体工事と「建物滅失登記」

業者との契約が終われば、近隣へのご挨拶などを経て、解体工事が始まります。そして工事が無事に完了した後、忘れてはならないのが「建物滅失登記(たてものめっしつとうき)」です。これは、工事から1ヶ月以内に、法務局に対して「この土地にあった建物は、取り壊して無くなりました」と届け出る手続きです。これを怠ると、存在しない家に対して固定資産税が課され続けることになってしまいます。


解体業者の選定では、こうした複雑な相続手続きに理解があり、必要に応じて司法書士などの専門家と連携できる会社を選ぶと、その後の流れが非常にスムーズです。例えば私たち松下総建では、解体工事そのものはもちろん、工事完了後の建物滅失登記に関するご相談や、信頼できる専門家のご紹介も承っております。

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複雑な相続の悩み、一人で抱えずに専門家へ相談を

「相続前に実家を解体したい」というお悩みの背景には、ご家族それぞれの様々な事情や想いがあることと思います。ここまで見てきたように、法律のルール上、その想いをそのまま実現することは難しいのが現実です。しかし、だからといって問題を先送りにしてしまうと、空き家は時間とともに傷み、経済的な負担や近隣トラブルのリスクは、むしろ増大していきます。


最も大切なのは、ご家族、ご兄弟で現状と将来について正直に話し合うことです。そして、何から手をつけて良いか分からない、家族だけでは話がまとまらないと感じたときには、一人で抱え込まずに、できるだけ早い段階で専門家の知恵を借りることです。


私たち松下総建は、ただ建物を壊すだけの会社ではありません。お客様が抱える根本的なお悩み、つまり「この家を、これからどうすれば一番良いのか」という問いに、長年の経験と知識をもって寄り添うパートナーでありたいと考えています。解体することが最善の選択なのか、それとも別の道があるのか。お客様の状況を丁寧にお伺いした上で、ご家族にとって最良のゴールにたどり着くためのお手伝いをいたします。まずはお話をお聞かせいただくことから、始めてみませんか。


この記事が、あなたの次の一歩を考えるきっかけになれば幸いです。

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